本書は、藤原京と平城京での発掘で分かったことを、テーマごと5ページ前後で数人の執筆者がテンポよく取りまとめています。
　一番驚いたのは、藤原京に設置された典薬寮という、今でいえば国立病院のような役所についてのこと。薬品を請求する木簡や薬として使用した硫黄・雲母などが出土したことから、役所の位置が同定できたのですが、現在は水田となっている出土地点の小字名が「テンヤク」であるとのこと。
　都が藤原京から平城京に移る際、役所・門・壁などの資材は新都で活用すべく解体移動され、また奈良時代に制定された班田収授法で、藤原京跡地もくまなく条里制で分割、人民に分配されて農地となりました。地上から藤原京は消されたわけですが、1300年以上たった現在まで、「テンヤク（典薬）」という地名が伝わっていることに、文化というか民族の記憶というか、ある種の情念を感じざるを得ません。